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通商問題の政治学

通商問題がどのように発生し、そしてどのように合意が成立するのか掘り下げてみたくていろいろ考えてみることにしました

TPP11の貿易転換効果で米国を多国間FTAに引き戻す

 

 

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TPP11への転換 

経済規模の観点からはTPPは事実上の日米FTAであった。そのためトランプ政権がTPPから離脱したことは日本にとって大いにガッカリさせられる展開であったわけである。日本は米国抜きでも残る加盟国でTPPを進めるか逡巡したが、その日本も米国を除く11カ国によるTPP、すなわちTPP11を進める方向に舵を切った(「『好機狙ったTPP11』」『日本経済新聞』2017年4月23日(朝刊))。

 

これが可能になった背景には、米国が日本の方針を黙認したことと、日本からしても日米二国間FTA交渉を進めることとTPP11の交渉を進めることがトレードオフの関係ではなく、両立しうる政策であるからに他ならない。

 

日本がTPP11に期待するのは、これが持つ貿易転換効果によって米国がTPPに戻ってくる可能性があること、そして戻ってこないにせよ、米国との二国間交渉を有利に進められると考えているからである。

 

貿易転換効果 

貿易転換効果とは、FTAによる関税・非関税障壁撤廃・削減により、当事国間の貿易が活発になる一方、本来効率性や価格面で有利な国からの貿易が減少することを指す。もともとそこに輸出していた第三国にとっては輸出の減少であり、市場の喪失となる。貿易転換効果はFTAによる非効率性増大を指す用語であるが、効率性云々は別に、FTAによって貿易の相手先が変わることとして使われることも多く、ここでもその意味で使用する。

  

FTAを締結した国同士では関税が撤廃されるため、相手国から輸入される商品の価格が安くなる。関税だけでなく、非関税障壁も撤廃されたなら両国間の貿易はさらに活発になると考えられる。TPP11であれば、オーストラリアやニュージーランドが農業大国であり、米国の競争相手となる。日本とオーストラリアはすでに二国間FTAを締結しているが、TPPのほうがより有利な条件であるため、オーストラリアとしてもTPP11はメリットがあるだろう。

 

貿易転換効果 → 米国の競争力低下 → 議会への圧力 → 議会から政権への圧力  

TPP11によって、日本との貿易でオーストラリアとニュージーランドが有利になって、米国からの輸出が減れば、米国内の農業団体が、地元の議員にTPPに参加せよ、とか日本とのFTA締結を急げと圧力をかけ、ひいては議会からトランプ政権への圧力となることが想定される。

 

仮にTPP11に米国が参加しないにしても、日本との交渉妥結を急ごうとすれば、自国の要求を貫徹させようとばかりすればいつまでも交渉妥結に至らないため、米国側が譲歩する可能性が出てくる。

 

アメリカファーストを掲げ、貿易赤字の削減を至上命題とするトランプ政権とすれば、日本の関税・非関税障壁を温存するようなものや、反対に米国の関税や非関税障壁を削減・撤廃するような協定には納得しにくいだろうし、議会の圧力に易々と屈するタマでもない。とはいえ、先の大統領選挙でトランプ大統領の票田となった米国中西部は農業州でもあり、実際、トランプ氏に投票した農家は少なくなかった。

そのため、自身の支持者からの圧力ともなればトランプ大統領としても無下にはできないかもしれない。折しも農産物価格は下落傾向にあり、米国農家の所得は低下しつつある。米国農家が輸出に活路を見出したいと考えれば、トランプ大統領に海外市場への進出拡大支援を求めることもあろう。

 

米国の農業法でも海外進出や輸出拡大を支援するプログラムは盛り込まれているが、一部を除き米国農業界が参加を望んでいたTPPと同程度のプラスの効果をもたらす施策のオプションはさほどない。

トランプ大統領はメンツを重んじるタイプだから、仮にTPP11が誕生しても米国が「参加させていただく」といった 体裁になると彼はTPP参加に首を縦にふることはないだろう。もともと各国あれほどまでに苦労して妥結に至ったTPPを米国の国内事情でご破算にされたわけで、米国の参加を乞うというやり方は振り回されたほうとしてはかなり釈然としない思いはあるが、実際に米国の参加は経済的にも安全保障的にも日本やアジア太平洋諸国には利益になるわけで、実利優先で米国を取り込めるかたちでTPP11をつくることが得策というものであろう。

 

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