通商問題の政治学

通商問題がどのように発生し、そしてどのように合意が成立するのか掘り下げてみたくていろいろ考えてみることにしました

大筋合意が近づく日EUEPA、消費者の利益と農業の利益のバランスをどうとるか?

 

大詰めを迎える日EU・EPA交渉 

新聞等で報じられているが、日EU・EPA経済連携協定)の大筋合意が近づいている。日本、EUともに7月での大幅合意を目指しているとされる。

 

依然として関税等をめぐって調整が必要な点は残っている。日本は農業、特に乳製品(チーズ等)、EU側は自動車が特に保護したい品目だ。

 

日本政府は畜産経営安定法を改正して、農協系以外にも乳製品流通を認めることを目指していたが、これに農業団体や野党が反発していて、これにさらに彼らが反対しているチーズの関税引き下げを認めるとなると、さらなる反発を招くのは必至であった。しかし、畜産経営安定法の改正にも目処が立ち、EPAの交渉が進めやすくなった。

 

他方、EU側としても英国の離脱交渉を控え、交渉のための人員をそちらち割きたいという希望があった。両者の思惑が一致したため、交渉進展の見通しが立ったのである。とはいえ、まだ詰めるべき論点は残っているため、これで大筋合意とならなければ、EUは英国離脱交渉に注力しなければならないから、交渉の進展に暗雲が立ち込める。

 

乳製品の関税引き下げが争点  

日本農業新聞も同EPA交渉の動向を報じているが、欧州の乳製品について、以下の記述がある。

 

政府内には環太平洋連携協定(TPP)水準の譲歩を容認する見方が支配的だが、生産現場には、消費者の評価が高くブランド力がある欧州産農産物への警戒感は強い。乳製品などで欧州側はチーズをはじめTPPを超える市場開放を要求しており、仮に、欧州側に日豪EPAやTPPなど既存の協定内容を超える譲歩をすれば、それら協定の見直しが避けられず影響が拡大する恐れが大きい。慎重な検討が求められる。

 

確かに日本ではヨーロッパの農畜産品や食品はとても人気だ。私も例に漏れず好きである。それゆえ、日本の農業セクターが脅威を感じるのは当然と言えば当然といえる。

 

しかし、他方で日本農業新聞がしっかりと認めるように、それは多くの消費者が買いたいと思う商品であり、そのため関税が削減されれば多くの消費者が恩恵を受けられることを意味する。安全性等が問題なら検疫等の措置が必要であるが、EUはHACCPや農業生産工程管理(GAP)といった認証取得を積極的に進めており、むしろ検疫や食品安全の水準という点では日本と同等か上回っているともいえる。

 

ちょっと余談、、、農産品の国際認証 

ちなみに東京オリンピックで選手村に野菜などを供給する場合、GAPなどの第三者認証取得が必須である。しかし、日本農家のGAP認証取得率は1%を下回る。このままではせっかく日本の素晴らしい農産品を世界にアピールする絶好の機会にもかかわらず、日本産の農産品は選手村で使用してもらえないという悲しい話になるからだ。

 

www.j-cast.com

 

自民党農林部会長の小泉進次郎氏がGAP等の国際認証取得を強く訴えるのは、オリンピック等の競技大会において日本の農産品を世界にアピールすることと、FTA等を利用した輸出拡大を果たすために絶対に必要だからである。

 

www.jacom.or.jp

 

さて、日EU・EPAに話を戻せば、関税削減が多くの消費者にとって利益になることが自明にもかかわらず、それでも高関税によって農畜産業を海外からの競争から保護するのであれば、それだけの正当化根拠が必要なはずだ。

 

関税以外の農業保護を目指せばいい

これは先日のブログにも書いたが、農業の保護をやめろ、という意味ではない。農業の保護、特に農家の所得保障については直接固定支払いや不足払い、農業保険といった他の手段によっても確保できる。それらの保護手段であれば、消費者は関税削減によって安価になった欧州産の製品を楽しめるし、農家の所得保障も可能になる。

 

mtautumn.hatenadiary.com

 

 そもそも日本の農畜産品のクオリティは非常に高い。そう易々と欧州産農畜産品との競争に負けるとは思えないし、むしろヨーロッパ市場に打って出ることさえ可能であろう。実際、自民党の日EU等経済協定対策本部の本部長に就任した西川公也農林・食料戦略調査会長が言うように、輸出攻勢のチャンスともいえるのだ(もっとも、そのためには上述のとおり国際認証を取得するための努力が必要ではあるが)

 

一方、西川氏は、欧州が輸入規制している豚肉を念頭に、「制度上、輸出できない仕組みになっていたが、そこをクリアすれば(国産品は)十分、競争力があると思う」と述べ、輸出解禁にも取り組む考えを示した。

 

消費者の利益と農業の利益のバランスをどこに求めるかはなかなかの難題であるが、消費者の利益が大きいことを農業界の利益を代弁する日本農業新聞でさえ認める今回の場合、関税引き下げは受け入れて、他の手段による農業保護にシフトするいいチャンスだと思う。

 

しかし、TPP交渉を進める理由の一つが、TPP交渉を進展させることでEUの焦りを呼んで、日EU・EPA交渉を有利に進めさせるというものであったが、その肝心なTPPが米国の退場によって、TPP11の可能性が残るとはいえ、当初の想定から大きく後退した。今ではむしろ、日EU・EPAによって米国とのFTA交渉を有利に進めることを目指すというのは、何とも言えない皮肉である。保護主義の嵐が世界で吹き荒れる中でのメガFTAの成立は、自由貿易を守る防波堤になり得るだろうか?