通商問題の政治学

通商問題がどのように発生し、そしてどのように合意が成立するのか掘り下げてみたくていろいろ考えてみることにしました

農業の産業としての特殊性と多面的機能

農業がなぜ保護されるに値するのか。

 

その根拠が農業の産業としての特殊性と多面的効果である。古い本だが、基本的な主張は今日でも概ね変わっていないので、豊田隆の本をもとにそれぞれについてまとめたい。

 

農業政策 (国際公共政策叢書)

農業政策 (国際公共政策叢書)

 

 

農業の産業としての特殊性と多面的機能

まず、農業の産業としての特殊性である。特殊性とはすなわち、天気や季節を相手にしなければならないこと、製造業に比べて分業にもとづく協業が困難であること、土地への依存度が高い産業であること、家族経営が圧倒的多数であること、農業に必要なスキルが他の産業に応用しにくいことなどがあり、そのため製造業やサービス産業のように市場メカニズムを単純に当てはめられないとする(pp.4-7)

 

もう一方の農業の多面的機能は、農業は単に農作物を生産する以上の役割を果たしているとするもので、たとえば、自然環境の保護、治水・利水への貢献、景観保全、食料安全保障、伝統文化の保全、観光資源などの役割を有するとの主張である(pp.7-8)。こうした多面的機能を果たすからこそ、手厚い保護が正当化されるのである。

 

農業が特殊な産業であることや農業が果たすこれらの役割を否定するものは少ない。農業政策改革や農産物の貿易自由化を支持する人たちも農業のこうした役割は認めているし、農業に何らかの保護が必要なことも認めている。

 

農業保護の論点 

問題はそれらの農業の特殊性や役割を認めた上で、どのような政策がその目的に資するか、そもそも現在の政策がその目的や日本の農業の発展に貢献しているかは議論のしどころである。

 

たとえば、減反や高関税が日本の農業の発展に寄与してきたのか?減反はコメ生産を制限して供給量を減らし、それによってコメ価格を高水準に維持させる政策だ。減反によって農家は農産物を生産するという本来の仕事ができないし、消費者は安価なコメを買えず、それはわれわれがコメに接する機会へ減らしうるし、経済状態が悪ければ、そもそもコメを買うことさえ難しくなる。高いコメはひいてはコメ離れを加速させる。

 

日本における農政と持続可能な発展 | キヤノングローバル戦略研究所(CIGS)

 

野放図にコメが生産されると、コメの供給過多となり、コメ価格が下落し、農家の所得が減少する危険性はもちろんある。その懸念に対しては、不足払い制度や直接固定支払い制度、または/および作物保険の保険料への補助の導入によって農家の所得低下に備えればよい。

 

農業の発展を支える政策の選択肢は一つではない。農業の特殊性と多面的機能を考慮することと今の政策を無批判に支持することはイコールではない。様々な選択肢を検討して農業の発展と消費者の利益拡大(国民の経済厚生の最大化)を両立できる政策は絶えず模索するべきだが、少なくとも減反は高関税保護よりは、不足払いは直接固定支払い、作物保険保険料補助のほうが、今の政策よりは農家と消費者の利益拡大のウィンウィンの選択肢であると考える。

 

農業政策改革や貿易自由化を支持するからといって農業保護が悪いと言っているのではない。要は保護する方法の当否である。