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G7サミットが終わって〜国際秩序の費用負担〜

 
G7サミット閉幕

トランプ大統領の言動が注目されたイタリア・タオルミナG7サミットが閉幕した。自由貿易を擁護する共同声明が発表できるか注目されたが、この点については「保護主義と闘う」という文言を盛り込めたから、自由貿易擁護派の最終防衛線の死守にはひとまず成功したと言えるだろう。

他方、「不公正な貿易慣行に断固たる立場をとる」というトランプ大統領の主張もあわせて盛り込まれ、自由貿易とは別の懸案事項であった気候変動については、米国の反対によりパリ協定支持を共同声明に盛り込むことに合意できなかった。


トランプ大統領はサミット終了後、ツイッターで、真に公平な条件(truly level playing field)の促進のため、貿易歪曲的(trade-distorting)慣行の除去を求めるという合意ができて、素晴らしい会議だったと述べているが、実際、サミットの共同声明を読むと、トランプ大統領の主張のほうが保護主義と闘うというくだりよりもかなりスペースが割かれているようにも見える。

www.g7italy.it


保護主義と闘うというくだりは言ってみれば一文に過ぎないが、貿易歪曲的慣行の除去については一段落が割かれている。貿易歪曲的慣行の次のパラグラフのルールに基づく国際貿易制度の重要性を認識するというくだりをどう読むかにもよるが(WTOルールに従うとすれば、トランプ大統領が主張するような報復関税に対する報復関税はルール違反であってできないことになる)、共同声明の合意のために腐心した形跡が見て取れる。

 

国際秩序維持のための非対称的な費用負担にアメリカはもう耐えられない

トランプ大統領が言うことは事実としては間違ってない部分がある。というのも、第二次大戦後の国際秩序の維持のためにアメリカは他国よりも多めの費用負担をしてきたからだ。これは他の国が戦争によって疲弊し、他方でアメリカはほぼ自国本土の被害を受けなかったから、そもそも多めの費用負担が出来たという面もあるが、それだけではなく、アメリカによる国際秩序の「統治」と、それへの他国の支持を獲得するために、アメリカが他国よりも費用負担をして、被治国にもアメリカが主導する国際秩序に利益を感じてもらい、国際秩序への支持を獲得するという制度維持構造という側面があった。

今では第二次大戦後のようにアメリカと他国とのあいだの力の格差は相対的に縮まったし、台頭する中国はいずれアメリカを経済的に追い越すことが確実視されている。こんな状況では非対称的な費用負担をしたくないというアメリカの気持ちもむべなるかな、という気もする。

その意味でアメリカは「普通の国」になりつつあるといえるが、これまでの国際秩序がアメリカの非対称的な費用負担によって安定してきたとすれば、国際秩序保護者としての役割をアメリカがやめるのは重大な現状変更になる。そして、アメリカの退場によって最も利益を得るのは既存秩序に何かとケチをつける中国やロシアであり、それは日本やヨーロッパにとって大きな損失を意味する。

 

仮にトランプショックを乗り切ったとしても、いずれ米中の差が縮まって逆転されるタイミングは確実に訪れるわけで、中国が民主主義や人権、市場経済を重んじる国に転換するという幸運が訪れない限り、アメリカ中心で運営されてきた国際秩序をどう運営するかという問題に世界は必ず直面する。米国が単独で負担できない以上は日本を含む他国も今以上に国際秩序維持にコミットしなければならなくなる。アメリカが非対称的な費用負担を続ける限り、トランプ以外にも公平な費用負担を求めるリーダーは現れるし、それを支持する世論も強くなるであろう。

 

自由貿易体制を含む既存の国際秩序にアメリカがメリットを感じにくくなっている。第二次大戦後はアメリカ主導の国際秩序に他国がメリットを感じられるように非対称的な費用負担までして秩序安定にアメリカは腐心した。しかし、今では当のアメリカがメリットを感じていない。今度は秩序の被治者が厭世的になっている治者にいかにしてリーダーにありつづけてもらうかに腐心しなければならない時代になっている。