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通商問題の政治学

通商問題がどのように発生し、そしてどのように合意が成立するのか掘り下げてみたくていろいろ考えてみることにしました

政治体制とFTAの帰結

 

 

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政治体制と意思決定のあり方 

国によって採用されている政治体制は異なる。この相違は通商政策を含む政治的意思決定の結果にどのような影響を与えるのか?

 

政治体制のバリエーションとしては、議院内閣制や大統領制といった立法府と行政府との関係を決める制度、小選挙区制や比例代表制といった議員の選出方法に関する制度など、さまざまなレベルでのバリエーションがある。

 

また、形式的な制度の違いとは別に、実際にそれがどのように運用されているかという問題もある。そして、この公式的、非公式的な制度の違いが政治的意思決定の結果に大きな影響を与えると考えられるのである。

今回は内山をもとに政治制度がFTAに関する政策に与える影響を考えてみたい。

 

www.murc.jp

 

内山は2010年までの日本の政治制度とその政策決定パターンとの関係性を、同じ議院内閣制を採用するイギリスと比較分析する。内山によると、55年体制以降、小泉政権以前の日本では、官僚や族議員主導のボトムアップ型政策決定パターンが定着していたとする。他方、イギリスでは、首相と内閣主導のトップダウン型の政策決定パターンが中心であり、日本の首相のリーダーシップは弱く、イギリスの首相のリーダーシップは強かった。

 

両国の首相のリーダーシップの差は内閣制度と政党の組織構造に起因し、立法府と行政府の一致度(凝集性)の差が重要で、凝集性が高いほうが首相はリーダーシップが発揮しやすく、低いとリーダーシップが発揮できない。

 

小泉純一郎は政策決定のトップダウン型への移行をすすめ、さまざまな構造改革を実施した。もっとも、後述するとおり、実際にリーダーシップを発揮できるかは、政治制度だけで決まるのではなくリーダーの資質や政治資源にも左右される。

 

55年体制下の政策決定パターン 

 55年体制下の日本の政策決定パターンを見ていく。関連するアクターとしては、首相、内閣、自民党(特に幹事長、総務会長、政務調査会長)、自民党内の派閥、族議員、官僚、利益団体が存在し、伝統的に自民党は派閥の連合体といえるものであった。

 

閣僚人事は派閥の力学によって決定され、首相が専門性等に基づいて自分の任命したい人材を自由に任命できなかった。内閣と官僚との関係性を見ても、官僚の影響力が大きく、各省の大臣は各省庁の利益の代表者であり、首相のリーダーシップを支え、内閣として利害調整を有効に解決できるようには機能して来たとはいえなかった。

 55年体制では、ほとんどの政策決定は官僚が発案し、関連する族議員の同意を獲得し、内閣はその同意をくつがえすことは難しいといった状態で、首相や内閣のリーダーシップはとても弱かった。換言すれば、55年体制下の内閣の閣議決定とは、各省庁と関連する族議員とで了解された内容を全会一致で承認するだけのセレモニーに過ぎなかった。

 

それでも、首相や内閣とそれ以外の族議員や官僚、利益団体との政策選好が似通っていれば、すなわち凝集性が高ければ、首相や内閣は他のアクターからの反対がないから、それだけリーダーシップを発揮できる余地が生じる。他方、首相や内閣の権力が弱く、他のアクターとの選好の大きな乖離があれば、他のアクターからの強い反対により、首相はリーダーシップを発揮するのは難しくなる。

 

トップダウン型リーダーシップと政治的資源、そしてそれがFTA政策に与える影響

2001年4月に首相に就任した小泉純一郎首相は、首相官邸主導のトップダウン型の政策決定を導入しようとした。彼は首相と官房長官などが明確な指示を出し、官僚がそれを実施するという方式を重視し、また、政策決定を自民党とは別に経済財政諮問会議等の場で進めて、それに基づき一元的に内閣で政策決定することを目指した。これにより、小泉政権下でトップダウン型の政策決定が一定程度導入されたといえる。

 

このように、55年体制で各セクターの利害を吸い上げ、上で利害を調整するようなボトムアップだった日本の政策決定は、小泉政権下でトップダウン型へと変容したといえる。さて、そもそもFTAを考える上でなぜ政治体制が大事なのか?それはFTA交渉においては、国内の多様な利益の調整が必要となり、政治体制がその調整のあり方に影響を及ぼすと考えられるからである。

 

ボトムアップの政治体制では、仮にリーダーが国益のためにはFTAが必要と思っても、FTAは不利益となるセクターも存在するため、そのセクターの利益を代表する団体や族議員、官僚の反対に直面すれば、彼らの同意を獲得するために、FTAを諦めるか、それともかなり譲歩したものにならざるを得ない。

 

しかし、トップダウン型の意思決定であれば、リーダーが自身の望む政策の実現が容易となるか、仮に譲歩が必要だとしても、譲歩の程度が少なくて済むかもしれない。そのため、リーダーが自由貿易を志向するタイプであれば、それだけFTA締結の可能性が高まることになる。さらにその中身もより自由化率が高いものとなろう。

 

もっとも、意思決定の仕組みだけが政策の帰結を決定するわけではなく、リーダーの持つ政治的資源の量も大きな影響を持つ。政治的資源の代表的なものが世論の支持、すなわちリーダーの人気である。世論におけるリーダーの人気が高ければ、各議員はリーダーに従ったほうが選挙での再選確率が高まるので、リーダーの政策を支持しよう。

反対にリーダーの人気が低ければ、リーダーについていくとかえって自身の再選確率を下げてしまう。民主党野田政権の末期を想像してもらえばわかるとおり、野田首相はTPPの交渉参加を志向していたが、彼は世論の人気がなかったから、党内のTPP反対派は彼に賛成するインセンティブをもたなかった。

 

政治的意思決定システムの変更により、リーダーは自身の意向を政策決定に反映させやすくなった。あとは、彼、ないし彼女がどの程度の政治的資源を有するか、そしてそれを上手く活用できるかが、FTA交渉の結果に大きな影響を与えると考えられよう。

 

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